『ゲド戦記 2 こわれた腕環』

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アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』の第2巻は、
『こわれた腕環』というタイトルである。

第1巻『影との戦い』をご紹介した際、
少年少女文学の範疇を大きく超えていると申し上げたことは、
第2巻でももちろんあてはまる。

10代でもこの名作は読めるだろうが、
20代はおそらく違う読み方になるだろうし、
30代、40代でもそうだろう。

それだけ多層的な読み方ができる書とも言える。

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第1巻で主人公だったゲドは、
第2巻でも登場するが、
第2巻の主人公はゲドではない。

しかしそのことによって、
物語の広大さや、
時空の立体感はむしろ拡張されている。

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ル=グウィンの作品には、
登場人物たちが厳しい環境の中で辿る旅が
しばしば描かれる。

広大な雪原や、世界の果てに続くような海とか、
空間的には単調で変化に乏しい旅路を
道連れとともに旅人が行く。

『闇の左手』とかね。

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本書では、外見的に「旅」らしい部分は
エンディングに近い部分で存在するが、
物語の大半はほぼ固定された舞台で語られる。

地下の世界だ。

それがまた、ほとんど暗黒に近い世界に関わらず、
ある種のリアリティをもって描写される。

単調で見映えのするものをほとんど持たない地下の
ようなところで、ル=グウィンはまるでその闇を
見て、さわってきたように描いている。

つまり、それも、「旅」なのである。

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こうした特殊な世界を迷宮のように仕立て、
そこで蠢くものを描写する。

ほとんど闇に過ぎぬところを
どうしてそこまで描き込めるのか
私にはよく分からない。

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第1巻で出てきたシンボリックな物体が、
物語の重要なアイテムとして
変奏されるのも興味深い。

『ゲド戦記』に描かれるものは、
「描ききれなかったゲド戦記」の部分を
強烈に浮かび上がらせる。

意識と無意識、光と闇。

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われわれが見たり知ったりするのは、
世界のほんの一部だということを知らされると同時に、
形象化されることのなかった物事が
この世界の背後に巨大なボリュームで保持されているような気がしてくる。

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ナマステ。ピース。








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